グランドセイコーという時計は、知れば知るほど味が出てくる、スルメのような時計だと私は思っています。
一見すると地味で、正直に言えば最初は「真面目すぎる時計だな」と感じたものです。
けれど手に取り、腕に巻き、毎日使ううちに、その磨き抜かれた面の美しさや、驚くほど狂わない精度に、すっかり惚れ込んでしまったんですよ。
そんなグランドセイコーには、限られたお店でしか買えない特別なモデルが存在します。
それが「マスターショップ限定モデル」です。
さらにその奥には、銀座の和光でしか手に入らない、ファン垂涎の和光限定モデルまである。
本稿では、マスターショップ限定とは何かという話から始めて、私が自信を持って推せる限定モデル、そして和光限定の世界まで、じっくりとお話ししていきます。

目次
マスターショップ限定とは何か
まずは、マスターショップ限定モデルがどんなものなのかを整理しておきましょう。
名前は聞いたことがあっても、意外と中身はご存じないという方も多いのではないでしょうか。
限定モデルの楽しみ方は、その成り立ちを知るところから始まるんですよ。
選ばれた正規店だけが扱う特別な一本

グランドセイコーには、メーカーが認めた特定の正規販売店、いわゆるマスターショップでしか購入できないモデルがあります。
それがマスターショップ限定モデルです。
マスターショップは、グランドセイコーの品揃えや接客、アフターサービスの体制が整った店舗だけが名乗ることを許されているんですよ。
つまり限定モデルは、グランドセイコーを本当によく分かったお店で、じっくり説明を受けながら手にする時計だということ。
そこにはメーカーの「この時計は、分かる方の手に渡ってほしい」という思いが込められているように、私には感じられます。
さらに中には、伊勢丹限定や高島屋限定、そして和光限定のように、特定の店舗だけに許されたモデルまであるのが面白いところです。
なぜ限定モデルの方が人気なのか

マスターショップ限定モデルとレギュラーモデルの間に、性能の差があるわけではありません。
それでも、人気は限定モデルの方が高いのが実情なんですよ。
その理由は、文字盤の色や針の仕上げ、ロゴの扱いといった細部に、限定ならではの特別な意匠が施されているからです。
例えば秒針が青く焼かれていたり、文字盤に獅子の紋章が添えられていたり。
一つひとつは小さな違いですが、時計好きにとっては、その小さな違いこそがたまらない。
加えて、数量限定のモデルは年月とともに市場から姿を消していき、希少価値が高まっていくこともあります。
自分だけの特別な一本を持ちたいという気持ちに、これほど応えてくれる時計はそう多くないでしょう。
オヤジが推すマスターショップ限定モデル
さて、ここからは私が推したいマスターショップ限定モデルを、一本ずつご紹介していきます。
機械式、スプリングドライブ、クォーツと、グランドセイコーが誇る三つの機構から、それぞれ魅力的なモデルを選んでみました。
どれも、長く付き合うにふさわしい一本ばかりですよ。
メカニカルハイビート36000 SBGH001

最初にご紹介したいのは、機械式のSBGH001です。
ステンレスの40.0mmケースに、シルバーの文字盤と3時位置の日付表示という端正な構成で、何より目を引くのが青く焼かれた秒針なんですよ。
秒針がGSのロゴの上を通るたびに、青い影がふっと映り込む。
この一瞬の美しさに、私は何度見とれたか分かりません。

心臓部のCal.9S85は、グランドセイコーの名機9Sをもとに、テンプの振動数を毎秒10振動まで高めて精度の安定性を追求したムーブメントです。
雫石の工房で職人が手作業で組み上げた機械の動きは、シースルーの裏蓋からじっくり眺めることができます。
癖のないデザインでスーツにもよく合い、10気圧の防水性能も備えていますから、毎日の相棒として申し分ない一本でしょう。
スプリングドライブ クロノグラフ SBGC005

続いては、スプリングドライブのクロノグラフSBGC005です。
軽くて丈夫なブライトチタンの43.5mmケースに黒い文字盤を合わせ、針やインデックス、ロゴにゴールドを配した、グランドセイコーとしてはかなり華やかな顔立ちなんですよ。

スプリングドライブとは、ゼンマイの力で針を動かしながら、その速さを水晶振動子で制御するという、セイコーだけが持つ独自の機構です。
機械式の力強さと、クォーツの精度。
その両方を一本の時計で味わえるのですから、時計好きとしては心が躍らないはずがありません。
リューズもクロノグラフのボタンもねじ込み式で、10気圧の防水性能を確保しているのも頼もしいところです。
2011年に発売されたモデルですが、年々手に入れるのが難しくなってきており、出会えたときが買い時と言ってよいでしょう。
クォーツGMT SBGN003

グランドセイコーを語るうえで、9Fクォーツの存在は欠かせません。
9Fを、ただのクォーツと思うなかれ。
一般的なクォーツの精度は月差で語られますが、9Fは年差±10秒という、まさに「クォーツを超えたクォーツ」と呼ぶべき精度を誇るんですよ。
しかもトルクが力強く、機械式に負けないしっかりとした時分針を動かせるのも特徴です。

SBGN003は、その9FクォーツにGMT機能を加えた多機能モデルです。
ステンレスの39mmケースに黒い文字盤という精悍な仕立てで、海外出張の多い方には心強い相棒になるでしょう。
クォーツですから、マスターショップ限定でありながら比較的手の届きやすい価格帯なのも嬉しいところです。
なお、グランドセイコーは2017年にセイコーから独立したブランドとなり、それ以降の文字盤からはSEIKOのロゴが外れています。
メカニカルハイビート GMT SBGJ003

同じGMTでも、こちらは機械式のSBGJ003です。
先ほどのSBGH001に載っていたCal.9S85をもとに、GMT機能を加えたCal.9S86を搭載しています。
テンプの振動数を高めて精度を突き詰めた機械に、二つ目の時間帯を表示する機能まで備えているわけですから、時間に厳しいビジネスマンにはこれ以上ない一本でしょう。

シースルーの裏蓋から覗くムーブメントは、見ているだけで時間を忘れるほどの美しさなんですよ。
黒い文字盤はグランドセイコーらしいシンプルさで、そこに差された赤いGMT針が実に印象的です。
2017年の方針転換を機にモデルチェンジしているため、狙うなら中古になります。
状態のよい個体は年々少なくなっていますから、気になる方は出会いを大切にしてください。
ヘリテージコレクション スプリングドライブ SBGA283

「ヘリテージコレクション」の名が示す通り、伝統的なグランドセイコーの精神を受け継いだのがこのSBGA283です。
40mmに満たない小ぶりなケースは厚みも約12mmほどに抑えられ、そこにわずかにアイボリーがかったシルバーの文字盤と、美しいドルフィン針が収まっています。
まさにクラシックの王道を行く佇まいなんですよ。

とはいえ中身は、最先端のスプリングドライブCal.9R65。
8時位置のパワーリザーブ表示は、デザインのアクセントであると同時に、ゼンマイの残りを一目で教えてくれる実用的な機能でもあります。
2017年に発売されたモデルですが、今もマスターショップ限定の中で特に話題に上ることの多い一本です。
グランドセイコーが掲げる「最高の普通」を、もっとも素直に体現した時計の一つだと私は思います。
44GSを蘇らせた SBGR083

やや古いモデルですが、限定モデルを語るうえで絶対に外せないのがこのSBGR083です。
2013年、セイコーの創業100周年を記念したヒストリカルコレクションの一本として、世界700本限定で生まれました。
デザインのもとになっているのは、グランドセイコーのスタイルを確立したと言われる1967年の名作「44GS」なんですよ。

※1967年発売 オリジナルの44GS 画像出典:https://museum.seiko.co.jp/collections/grand_seiko/collect003/
44GSは、それまでの時計とは一線を画す、多面的で歪みのない面で構成されたケースを持っていました。

派手さはありませんが、見やすく作り込まれたインデックスと針、そしてザラツ研磨と呼ばれる鏡のような面の仕上げが、なんとも言えない品格を漂わせます。
ムーブメントは自動巻きのCal.9S56で、約72時間のパワーリザーブを備えた実用的な一本です。
アイボリーの獅子 SBGX039

9Fクォーツの限定モデルの中でも、愛好家から特に根強い人気を誇るのがこのSBGX039です。
アイボリーの文字盤にGSのロゴ、そしてグランドセイコーの象徴である獅子の紋章が並び、いかにも特別な一本といった風情なんですよ。

ムーブメントは、グランドセイコーのクォーツの基幹となるCal.9F62。
年差±10秒という圧倒的な精度を、電池交換と定期的な点検だけで長く楽しめるのは、忙しい方にとって何よりありがたいことでしょう。
ステンレスの39mmケースに三針というシンプルな構成ですから、どんな装いにもすっと馴染みます。
機械式の手間をかけずに、グランドセイコーの真髄を味わいたい。
そんな方にこそ、手に取っていただきたいと感じます。
スプリングドライブ クロノグラフ SBGB001

マスターショップ限定の中でも、かなり異色の存在がこのSBGB001です。
二つの積算計を3時側に寄せた印象的な文字盤に、サファイアガラスのベゼルリング。
グランドセイコーらしからぬ大胆なデザインに、初めて見たときは驚いたものですよ。

セイコー創業100周年にあたる2013年の末に、特別感あふれるモデルとして発売されました。
44mmの肉厚なケースはスポーティですが、ドルフィン針や植字のインデックスといったグランドセイコーの作法が、エレガンスをしっかりと保っています。
ムーブメントはスプリングドライブのクロノグラフCal.9R84。
すでに生産を終えたモデルですが、今も熱い支持を集め続けている一本です。
キャリバー9S 20周年記念 SBGR311

SBGR311は、機械式ムーブメント9Sの誕生20周年を記念して、2018年に1300本限定で作られたモデルです。
9Sが世に出たのは1998年のこと。
社会が豊かになるにつれ、機械式時計という伝統的な仕組みに再び光が当たり始めた時代でした。

このモデルの見どころは、何と言っても文字盤です。
炎で鉄を鍛える鍛冶の伝統をイメージしたブラウンの文字盤に、「G」「S」、そして初の10振動モデル45GSを生んだ第二精工舎の「S」のマークが、螺旋状に整然と並んでいるんですよ。

ケースはグランドセイコーとしては珍しい42mmで、専用に大型化されたCal.9S68を搭載しています。
裏蓋のガラスには金色の獅子の紋章と記念の文字が刻まれ、特別な一本であることを静かに主張してくれます。
62GS復刻 SBGR092

わずか100本しか作られなかった、手にすること自体が難しい一本がこのSBGR092です。
1967年に発売されたグランドセイコー初の自動巻き「62GS」を、グランドセイコー55周年の一環として2015年に復刻したモデルなんですよ。
4時位置に配されたリューズや、裏蓋の意匠など、オリジナルの雰囲気が丁寧に受け継がれています。

グランドセイコーとしては珍しく、ケースにはイエローゴールドが使われています。
古き良き時代を思わせる佇まいは、50代、60代の男性から特に支持が高いようです。
見た目はクラシカルでも、中身は現代の高性能なCal.9S65。
半世紀前の名作を、今の技術で安心して日常に連れ出せる。
これほど贅沢な復刻もそうないと私は感じます。
さらに奥の院、和光限定モデル
ここまでマスターショップ限定モデルをご紹介してきましたが、実はその中に、さらに選ばれた場所でしか買えない限定品があります。
日本でただ一か所にのみ販売が許され、しかも製造数がきわめて絞られた特別な時計。
それが、銀座の和光だけで扱われる「和光限定グランドセイコー」なんですよ。
和光という特別な場所

和光は、銀座四丁目の交差点に建つ、時計塔のある美しい建物でおなじみの老舗です。
その歴史は古く、1932年6月に、セイコーの前身である服部時計店の本社ビルとして建てられました。
今では宝飾品やアパレル、食品まで幅広く扱っていますが、主役はやはりセイコーの時計です。
グランドセイコーのための売り場は、まさに圧巻と言ってよいでしょう。
ファンにとっても、セイコーにとっても特別なこの場所だけで売られるモデルは、過去にも何度か作られてきましたが、本格的に展開が始まったのは2015年からです。
製造数が限られ、位置づけも高いことから、中古であっても相場は高めで、中にはプレミアがつく個体もあります。
ここからは、私が心惹かれる和光限定モデルをいくつかご紹介しましょう。
和光限定50本 SBGA393

SBGA393は、スプリングドライブを搭載した和光限定50本のモデルです。
ステンレスの40mmケースに、グランドセイコーのコーポレートカラーでもある深いブルーの文字盤を合わせた、洗練された一本なんですよ。
2018年に発売されたこのモデルは、セイコーが和光の隣に体験型の発信拠点「セイコードリームスクエア」を開いた年に生まれました。

裏蓋はシースルーで、スプリングドライブの機構を眺められるうえ、「WAKO LIMITED COLLECTION」の刻印が入っています。
革ベルトも付属しているので、クラシカルに着けこなす楽しみもあるでしょう。
和光限定 SBGH241

SBGH241も、同じく2018年に生まれた和光限定の機械式モデルです。
37mmという小ぶりなケースがクラシックな雰囲気を醸し出し、文字盤に添えられた青針が実に端正なんですよ。
小さくても、グランドセイコーらしく美しく磨き上げられたケースとブレスレットは、スーツの袖口からさりげない存在感を放ってくれます。

このモデルは和光限定でありながら、本数の制限はありません。
ただ、大量に作られているわけではないので希少性は変わらず、小径ケースの人気と相まって、店頭に並ぶとあっという間に売れてしまうことも多いようです。
小ぶりな時計を好む方には、ぜひ一度手に取っていただきたい一本です。
和光限定30本 SBGH007

こちらは本格展開よりも前の2010年、グランドセイコー50周年を記念して30本だけ作られた、きわめて貴重な一本です。
和光限定のモデルには伝統的にアラビア数字のインデックスが用いられることが多いのですが、このモデルでは12・6・9時に数字を配し、優雅さと見やすさを見事に両立させているんですよ。
シルバーの文字盤に、青い秒針がよく映えます。

ムーブメントは基幹機のCal.9S85。
裏蓋には「LIMITED」「WAKO」の文字と製造番号が刻まれ、特別感をいっそう高めています。
わずか30本ですから、出会えること自体が幸運と言えるでしょう。
和光限定30本 SBGW041

日付表示すら持たない、潔いほどシンプルな和光限定モデルがこのSBGW041です。
2006年に、わずか30本だけ作られました。
手巻きムーブメントを載せているおかげでケースが薄く、袖口にすっと収まる上品さは、好きな人にはたまらない魅力なんですよ。

搭載されているCal.9S64は、今もグランドセイコーの手巻きコレクションに使われている高性能な機械です。
優れた精度に加え、パワーリザーブは約72時間と、およそ三日間動き続けてくれるのも嬉しいところ。
製造から年月が経ち、本数も少ないため市場で見かける機会は稀ですが、一度は手に取ってみたい一本です。
和光限定30本 SBGT025

最後にご紹介するのは、2006年に30本だけ作られたクォーツのSBGT025です。
和光の時計塔を思わせるアラビア数字のインデックスに、曜日と日付を表示するデイデイトの窓。
そして曜日に漢字の表記がある、というのがこのモデルの粋なところなんですよ。
古き良き時代の国産時計を思わせる、なんとも温かみのある顔立ちです。
ムーブメントは9Fクォーツの一つ、Cal.9F83。
こちらも市場で見かける機会はなかなかありませんが、和光限定の歴史と奥深さを感じさせてくれる逸品ではないでしょうか。
まとめ
マスターショップ限定モデルは、レギュラーモデルと性能は変わらなくとも、針やロゴ、文字盤の色といった細部に特別な意匠が込められた時計です。
その小さな違いに心を動かされるのが、時計好きというものなんですよ。
数量限定のモデルの中には年々希少価値が高まっているものもあり、和光限定ともなれば、出会えること自体がひとつの縁と言ってよいでしょう。
グランドセイコーは、手入れさえ怠らなければ何十年でも狂わずに時を刻み続けてくれる時計です。
だからこそ、限定モデルという特別な一本を選び、人生の節目とともに長く付き合っていく。
それは一生モノの時計の選び方として、実に理にかなったものだと私は思います。
気になるモデルがあれば、ぜひマスターショップに足を運び、実物を手に取ってみてください。

